Dark to Light
                                
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 「おらぁ、待てよ!」

 「痛っ!」

逃げようとした男たちの一人の染髪を思いっきり引っ張った。
男は俺の顔を見てひきつった。

 「K学は弱いだぁ?覚えとけよ、俺がK学のアタマ澪月 坡れづき つづみだ!」

は、はい。と男たちは頭を下げた。気分がスカッとする瞬間。
蹴りをくらわされて一目散に逃げ出した。鎌倉市立O中のやつら。

 「これで、3校目か。いいペースだな。」

轍生てつきが指折り数える。
入学して3か月。鎌倉市にある、I中、F中、そしてO中。
この辺りの中学のタイトルは、ほぼ奪った形だ。
俺は王様気分で街を闊歩する。

 「さすがっすねー!次はどこ行きますか?」

仲間もたくさん増えた。みんなが俺に称賛の目を向ける。
ケンカやって勝つたびに、仲間から尊敬された。
だから、俺は、見かけない制服を見れば、

 「てめえ、どこの学コだよ。」

ケンカを売った。
そして、ぼこぼこにして、勝って、どんどん勢力範囲をのばしていった。
夏を過ぎたころには、ここ周辺の不良は皆俺の舎弟。
学コでも外でも誰もが俺を見ると頭を下げ、へりくだるようになった。
マジ、サイコーに気持ちが良かった。

 「えー。マジ?」

 「何?何?」

放課後、いつものように学コの裏庭でたまっていたら、舎弟の一人が言った。

 「あ、坡さん。ちわっす。」

 「いやね、知ってます?湘南の族、BULESブルースまくられた・・・・・って話。」

湘南暴走族、BLUES。あまりいい話は聞かない。
恐喝やカツアゲどか、ヘーキでやってるってウワサの連中。
しかも、そいつの話によると、3人にやられたらしい。
族相手に3人。

 「滄 氷雨あおい ひさめ如樹 紊駕きさらぎ みたか。あと、一人は名前わかんないんすけどね。」

 「そうそう。とにかくその3人で、っちまったらしんですよ!」

滄 氷雨。
耳にしたことはある。横浜一でかかった族、THE ROADロードの特隊。
2年位前に消えた。かなりでかいニュースにもなった。

如樹 紊駕。
七里ガ浜海岸に近い、鎌倉市立S中1年。会ったことはない。
舎弟がいうには、さぼりの常習犯で、ケンカ強い。

 「その3人。族なんですよ。んーと。なんてゆったかな。そうそう、BADバッド。」

 「んな族、きーたことねーぞ。」

 「旗揚げしたばっかなんじゃねーの。」

まわりはごちゃごちゃいった。
族なんて、知ったことか。
俺が吐き捨てると、舎弟の一人が眉をひそめた。

 「それが、その滄 氷雨、うちの学コにいるらしーんすよ。」

周りが一斉に騒いだ。

 「ばーか。よく考えてみろよ、それがマジなら名が売れてねーわけねーだろが。」

俺の言葉に、ですよね。と、納得した。
元THE ROADの特隊でBADの頭。
んな奴がいたら、はなからこの学コ、シメられてんべよ。
頭わりーな。

 「でも、カンケーねー。滄 氷雨なんて目じゃねーよ。」

 「さっすが、坡さん!次、高等部いきましょうよ!K学制覇!」

 「俺たち鼻たけーよなぁ。」

 「高等部なんて楽勝。でも、その前にS中にするかな。」

如樹 紊駕がいるっつーS中。
そいつが頭だろう。
奴を殺ったらS中はもちろん、BADやBLUESも従わせられっかも。

周りは歓声をあげてざわついた。
俺はますます気持ちが高揚して、有頂天になっていった――……。



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